沢煮椀(さわにわん)とは、千切りにした豚肉(伝統的には豚の背脂)と数種類の根菜や椎茸などを、昆布や鰹節の澄んだ一番だしで煮出し、塩や薄口醤油で上品に味を整えたあとに粗挽きの黒胡椒を振って供する汁物です。口に含むと、だしの端正な旨味の奥から豚肉のコクが広がり、ピリッとした胡椒の刺激が後味を爽快に引き締めます。
多くの人が興味を惹かれる「沢」という言葉ですが、沢煮椀の由来や沢煮椀の名前の意味には料理界で広く語り継がれている2つの有力な説が存在します。
第一の説は、「沢」という漢字が持つ「沢山(たくさん)」という意味に由来するものです。大根、人参、ごぼう、椎茸、長ねぎ、三つ葉といった数多くの具材を取り合わせて煮ることから、具だくさんを意味する「沢煮」と名付けられました。古来の日本料理において、数多くの食材を一椀に調和させる調理法を「沢」と表現した風雅な名残です。
第二の説は、山林を流れる「沢(渓流)」を想起させる佇まい、あるいは山の猟師(マタギ)の食文化に端を発するという説です。かつて山に入る猟師たちが、保存食として持ち歩いていた塩漬けの豚肉や脂身を山沢の清らかな水で煮込み、自生する山菜や野草を刻んで鍋にした野趣あふれる料理が原型であると伝えられています。繊細に整えられた千切りの具材が透き通った汁の中でたゆたう様子は、まさに清らかな谷川のせせらぎ(沢)を連想させます。