インターネット上、特にSNSやビジネス系ブログで定期的に拡散される「スティーブ・ジョブズが病床で遺した最後の言葉」とされる長文テキストが存在します。「ビジネスで成功を収めたが、病室のベッドで振り返ると富など虚しい」「家族や愛を大切にしなさい」といった訓話が綴られていますが、結論から言えばこれは完全なデマ(捏造された創作文)です。
公式な記録として、ジョブズの妹であり作家のモナ・シンプソン氏が追悼演説(ニューヨーク・タイムズ紙掲載)で明かした、2011年10月5日のジョブズの本当の最期の言葉は極めてシンプルでした。
"OH WOW. OH WOW. OH WOW."
家族を見つめ、その先にある何かを見据えるようにして発せられたこの短い感嘆詞こそが、生涯にわたって驚きと発見を追い求めたジョブズの真実の最期でした。道徳的な説教をネット上で語らせる風潮は、複雑な人間の実像を分かりやすい物語に単純化しようとする典型的なネットミームと言えます。
また、彼の輝かしい経歴の裏には、1985年のApple追放劇、NeXT社の立ち上げ苦戦、ピクサー(Pixar)への巨額出資と初期の赤字など、壮絶な挫折がありました。1997年のApple復帰まで続いた12年間の雌伏の時があったからこそ、傲慢さを削ぎ落とし、卓越した経営統率力を獲得できたのです。