サッカーのフォーメーションを語る上で欠かせないアンカーという言葉は、英語の「Anchor(船の錨)」に由来します。リレー競技の最終走者をアンカーと呼ぶのが一般的ですが、その語源を辿ると元々は「綱引き」の最後尾に位置する最も屈強で体重のある選手を指す言葉でした。綱がどれほど激しく揺さぶられても決して動かず、チーム全体を地面に繋ぎ止める重石――サッカーにおけるアンカーも、まさに相手の激しいプレッシャーに晒される中盤の底で、チームが崩壊しないよう「錨」となって踏みとどまる役割を担っています。
多くのファンが疑問に抱くのが「アンカーとボランチの違い」です。この2つの関係を理解する鍵は、言葉のレイヤー(階層)にあります。ボランチとはポルトガル語で「自動車のハンドル(舵取り)」を意味し、日本においては守備的ミッドフィルダー全般を指す広い概念として定着しています。一方のアンカーは、ボランチという大きな枠組みの中に属する「特定の役割・配置」を指します。
一般的に、中盤の底に2枚の守備的MFを並べる陣形を「ダブルボランチ(2ボランチ)」と呼ぶのに対し、中盤の底にたった1枚で配置される選手を「ワンボランチ」、あるいは役割の観点から「アンカー」と呼びます。2枚で守備エリアを分担するダブルボランチとは異なり、アンカーは横幅68メートルにおよぶピッチ中央の危険地帯(バイタルエリア)を原則として1人で管理しなければなりません。そのため、極めて高い戦術インテリジェンスと広範囲の危機管理能力が求められる専門職なのです。
また、各国によっても呼び名とニュアンスが異なります。スペインでは旋回軸を意味する「ピボーテ(Pivote)」、イタリアでは演出家を意味する「レジスタ(Regista)」という呼称が存在します。ピボーテはアンカーとほぼ同義で使われますが、レジスタはアンドレア・ピルロのように中盤深くから長短のパスでゲームを完全に支配する司令塔タイプに特化して使われる傾向があります。