年収や役職で色が分かれていないとすれば、なぜ人によってピンク、水色、薄緑、オレンジなど多彩な違いが存在していたのでしょうか。その理由は、日本の公的医療保険制度が「職域」や「地域」ごとに細かく分立している構造にあります。
公的医療保険には、主に以下の4つの系統が存在します。
- 協会けんぽ(全国健康保険協会):主に従業員数規模が中小企業の会社員とその扶養家族が加入(加入者数は約4,000万人規模)。
- 組合健保(単一・総合健康保険組合):主に大手企業や同業種の企業グループが自前で設立した組合に所属する会社員が加入。
- 共済組合:国家公務員、地方公務員、私立学校教職員などが加入。
- 国民健康保険(国保):自営業者、農業従事者、フリーランス、退職者などが加入(運営主体は各市区町村および国民健康保険組合)。
例えば、中小企業の従業員が多く加入する協会けんぽの保険証は、長年「薄い水色(ブルー)」が採用されてきました。全国一律で膨大な枚数を印刷・発行するため、視認性とコスト、清潔感を考慮した定番色として定着した経緯があります。
一方で、大手企業が組成する組合健保は全国に約1,300組合以上存在し、それぞれが独自にカードの色や意匠を発注しています。爽やかな若草色(緑系)を採用する健保もあれば、コーポレートカラーに合わせた濃紺やエンジ色、親しみやすいピンク色を採用する健保もありました。さらに、公務員などが加入する共済組合では、落ち着いた若草色や淡い黄色、藤色などが用いられるケースが多く見られました。
最も色の移り変わりが激しいのが、各自治体が運営する国民健康保険(国保)です。国保は毎年または2年ごとに定期更新が行われていたため、窓口や医療機関で「有効期限切れの古いカード」と「有効な新しいカード」を一目で識別できるよう、更新年度ごとに色を「ピンク→緑→水色→黄色」とローテーションさせる運用が多くの自治体で採用されていました。この自治体ごとの年度更新用カラーローテーションこそが、世間に「保険証には多種多様な色が存在する」という印象を決定づけた最大の要因です。