心臓の数と並んで読者を驚かせるのが、「タコの脳の数は9個ある」という真相です。これは比喩表現ではなく、神経科学の分野で「自律分散型知能」として正式に研究対象となっている極めて現実的な構造です。
タコには約5億個の神経細胞(ニューロン)が存在しますが、そのうち中央の脳(頭部)に集まっているのは全体の3分の1程度に過ぎません。残る3分の2に及ぶ膨大なニューロンは、なんと8本の腕の根元にある神経節(末梢の局所脳)に分散して配置されています。各腕が独立した思考ユニットとして機能しており、中央の脳がいちいち命令を下さなくても、腕自身が「見る、触る、味見する、障害物を避ける」といった複雑な判断を自律的に下すことが可能です。
国内の水族館飼育担当者の証言やSNS上で話題となる検証映像でも、その桁外れの知能が裏付けられています。海外の公立水族館で起きた有名な脱出事件では、夜間に水槽の重いガラス蓋を内側から持ち上げて脱出し、床を這って隣の水槽の魚を捕食した後に元の水槽へ戻っていたという報告が存在します。また、密閉されたジャム瓶の内側から蓋を回して脱出する実験や、ココナッツの殻を拾い集めて持ち運び「移動式のシェルター(道具)」として再利用する観察記録は、無脊椎動物の中でタコが例外的な高知能を有している動かぬ証拠です。