日本国内のネット空間において最も強い不安と関心を煽り続けているのが、「イルミナティカードは日本の破滅を予告している」とする一連の説である。その代表格を精査していくと、視覚的類似性を利用した巧妙な解釈の連鎖が見て取れる。
国内で最も有名な「Combined Disasters(複合災害)」のカードには、崩落する巨大な時計台と、恐怖におののき逃げ惑う群衆が描かれている。この時計塔の文字盤や石造りの意匠が「東京・銀座の和光本館(現・SEIKO HOUSE)」に極似していると指摘され、逃げる人々の衣服が「黒・黄・緑・赤・青」の五輪カラーに見えることから、東京五輪前後に壊滅的災害が起きるという噂が長年囁かれてきた。
さらに、巨大な火山が激しくマグマを噴き上げる「Up Against the Wall」などの災害カードは「霊峰・富士山の噴火」に見立てられ、激しい大津波や沿岸部の原発事故を描いたとされるグラフィックは「横浜みなとみらいや東京湾の沈没」と結びつけられた。ネット掲示板やYouTubeでは、背景のビル群のシルエットが「横浜ベイブリッジ」や「インターコンチネンタルホテル」に似ているとの強引な図解が幾度となくバズを生み出している。
だが、ゲームの原典ルールとカードテキストを精読すると、これらのカードはいずれも特定国を狙ったものではない。「Combined Disasters」の本来の効果は、プレイヤーが対象都市に対して「2つの異なる災害カードを同時に発動して壊滅させる」という汎用ルールに過ぎない。時計台のモチーフも、欧米の映画やコミックで頻繁に用いられるロンドンのビッグ・ベンや一般的な市庁舎時計塔のデフォルメである。日本人の生活圏にある象徴的ランドマークと結びつけることで、恐怖と関心が局所的に増幅された典型例と言える。