草食動物である馬は、捕食者から身を守る進化の過程でほぼ死角のない広大な視野を獲得した。しかし、時速60キロを超える極限のスピード勝負において、その広い視野は時として致命的な集中力の欠如を招く。物見(周囲をキョロキョロ見渡す仕草)をして推進力を失う馬に対し、正式名称である遮眼革(ブリンカー)の装着はまさに特効薬となる。
視界の下側を遮って足元の影への警戒を解くシャドーロールが「下方向の恐怖」を取り除くのに対し、ブリンカーは「背後や横からのプレッシャー」を完全にシャットアウトする。近年進展するスポーツ科学・調教技術の解析でも、視野角を狭めることで馬の視線移動が激減し、心拍数の無駄な急上昇を抑える効果が実証されている。レース中にブレーキをかけてしまう繊細な逃げ馬や、他馬に囲まれると走る気を失う差し馬が、別馬のような推進力を発揮する背景にはこの視覚的アプローチがある。