認知症と介護問題をいち早くテーマに掲げ、社会現象となった『恍惚の人』。2026年の今、日本はまさにその極限状態にある。AIケアやロボット介護の導入が進む一方で、人間同士のつながりの希薄化や孤立死は深刻化する一方だ。有吉が描いたのは、単なる制度の不備ではない。人間の尊厳とは何かという、極めて倫理的な問いかけだった。
現代の読者は、作中の家族の葛藤に自らの未来を重ね合わせる。介護を自己責任として押し付ける社会構造への怒りは、半世紀前も今も変わらない。むしろ、テクノロジーが進化しすぎた現代だからこそ、泥臭い人間の感情のぶつかり合いを描いたこの小説が、人々の乾いた心に深く突き刺さるのだ。