映画で話題となった『真夏のオリオン』の歌詞に隠された本当の意味を探る際、多くの鑑賞者がまず直面するのが「作中では主にハーモニカやピアノで奏でられる旋律に、どのような言葉が宿っていたのか」という疑問です。本来、オリオン座は冬を代表する星座であり、うだるような日本の真夏には見られないはずの天体です。しかし、天文学的には夏の終わりの午前3時過ぎ、空が白み始める直前の東の地平線に、ほんの一瞬だけその姿を現します。
倉本艦長(演:玉木宏)率いる潜水艦「イ-77」が直面していたのは、米軍駆逐艦による執拗な爆雷攻撃と、底をつきかける酸素、そして迫り来る死の恐怖でした。有沢志津子(演:北川景子)が兄の義彦(演:堂珍嘉邦)と倉本に手渡した手書きの楽譜『真夏のオリオン』は、単なる愛の調べではありません。「どれほど深い闇の底に沈もうとも、必ず夜明けはやってくる。真夏の空に昇るオリオンのように、生きて生還を果たしてほしい」という、苛烈な戦火に抗う渾身の祈りが込められていました。
作中で言葉として歌い上げられることがないインストゥルメンタル曲でありながら、観客が「歌詞」を探し求めるのは、音符の一つひとつに志津子の肉声が宿っているかのような演出がなされていたからに他なりません。音楽監督の岩代太郎氏が手掛けたメロディは、死を美化する当時の軍国主義的価値観を真っ向から否定し、「何があっても生き残ることこそが真の勇気である」という強い反戦のメッセージを雄弁に物語っています。