狙撃された海江田四郎は、その場で即死したのか、それとも生き延びたのか。長年読者の間で激しい議論が交わされてきた海江田四郎の生死について、原作では意図的に明確な死亡宣告の描写が避けられています。
銃撃直後、駆け寄った最大の好敵手であり理解者でもあるディーゼル潜水艦「たつなみ」の艦長・深町洋の腕の中で、海江田は静かに言葉を交わします。そのまま緊急搬送されますが、医師による死亡確認や葬儀の場面は描かれません。物語は劇的な暗転を迎え、一気に数十年後の未来(21世紀中盤)へと時間がスキップします。
エピローグで描かれるのは、白髪の老境に達した深町洋の姿です。ニューヨークの港から静かに海を見つめる深町の視線の先には、海江田の理念を受け継いだ国連平和維持潜水艦が航行していました。このラストシーンが意味するのは、「海江田四郎という個人の肉体的生死を超越し、彼の思想が世界システムとして定着した」という作者・かわぐちかいじ氏のメッセージです。
海江田が仮に生き延びて指導者として君臨し続ければ、世界政府は海江田個人の独裁体制になりかねません。彼が演説直後に凶弾に倒れることで、カリスマの神格化が防がれ、残された人類自身がその理想を現実の制度へ落とし込む責務を負うことになりました。あえて生死の白黒をつけず、伝説へと昇華させた幕引きは、極めて計算された作劇上の必然だったと言えます。