「恥の多い生涯を送ってきました」という有名なフレーズの元ネタは、1948(昭和23)年に発表された太宰治の傑作小説『人間失格』です。一般には「作品の一行目」と誤解されがちですが、作品構造上は別の役割を担っています。
本作は、語り手である「私」が手に入れた3枚の奇妙な写真と3冊のノートについて語る「はしがき」から始まります。その後の「第一の手記」の冒頭に置かれているのが、主人公・大庭葉蔵(おおばようぞう)によるこの独白です。
この有名な一節に続く文章は、以下のように展開します。
「恥の多い生涯を送ってきました。自分には、人間の生活というものが、見当がつかないのです。」
主人公は続けて、自身が幼少期から抱えていた「周囲の人間への理解不能さ」と「他者に対する底知れぬ恐怖」を淡々と告白していきます。自分が他者と決定的に異なっているという違和感、そして社会のルールに順応できない恐怖こそが、彼が語る「恥」の正体です。この短い2文だけで、読者は大庭葉蔵という特異でありながら普遍的な孤独を抱える青年の内面へと一気に引きずり込まれます。