『魔女の宅急便』のエンドロールを眺めていて、驚きとともに目を留める観客は今も後を絶ちません。「キキ:高山みなみ」「ウルスラ:高山みなみ」——主役と、その導き手となる重要キャラクターが、同一の声優によって演じられているためです。一見すると、制作上のコスト削減や偶然の産物のようにも受け取られかねないこのキャスティングですが、当時のオーディション記録と制作ドキュメントを辿ると、そこには極めてスリリングな経緯が存在していました。
映画制作の初期段階において、高山みなみはキキ役ではなく、まさにウルスラ役のオーディションを受けていました。当時の高山はボーイッシュで芯の強い声質を高く評価されており、スタッフ陣の間でも「ウルスラ役に最適」と目されていたのです。ところが、肝心の主役であるキキ役のキャスティングが難航。多数の候補者をオーディションする中で、宮崎駿監督が「キキの日常的な息遣いや感情の揺らぎを自然体で表現できる」と白羽の矢を立てたのが、別枠で参加していた高山みなみでした。
キキ役が高山に決定したことで、空席となったウルスラ役の選考が改めて進められました。しかし、野性味を持ちながらも大人の分別を備え、傷ついたキキを優しく包み込む独特のトーンを持つ声優は容易に見つかりませんでした。制作スケジュールが逼迫する中、宮崎監督から「ウルスラも高山さんに演じてもらえないか」という異例の提案がなされます。再度行われたウルスラ役のテスト収録で、高山が見せた演じ分けの鮮やかさに監督は即決。「声のトーンを変えるだけでなく、精神の佇まいそのものを変えてみせた」と関係者を唸らせ、日本アニメ史に残る一人二役の快挙が結実したのです。
このキャスティングは結果として、作品に深遠なテーマ性をもたらしました。ウルスラは単なる頼れる先輩ではなく、「少し先の未来を歩むキキ自身の投影」というメタファーを獲得したのです。自分と同じ声を持つ存在から生き方のヒントを得るという構造は、自己との対話そのものであり、観客の無意識に強い説得力を刻み込みました。