昭和48年、老舗出版社のフレーベル館から一冊の月刊絵本が出版された。自らの顔をちぎって傷ついた者に与えるという、異色のヒーローを描いた作品。これこそが、のちに日本の児童文学の歴史を大きく変えることになる『アンパンマン』の産声であった。
刊行当初、大人たちや教育関係者からは「顔を食べさせるなんて残酷だ」「格好悪すぎる」と非難の嵐が巻き起こった。しかし、やなせは周囲の雑音に一切耳を貸さなかった。身を削ってでも飢えた者を救うことこそが本当の正義であり、戦地で倒れた弟をはじめとする全ての犠牲者に捧げる祈りだったからだ。やがて子供たちの口コミから爆発的な人気を獲得し、名作『それいけ!アンパンマン』としてアニメ化されると、日本中を巻き込む社会現象となった。