季語の基準を守り伝える「歳時記」もまた、固定された化石ではない。気候変動によって四季の境界が揺らぎ、猛暑日が常態化する現代において、季語の定義や分類をめぐる議論はかつてないほど活発化している。季語の本意と伝統的な格調を重んじる日本伝統俳句協会が、自然への敬意と歴史的文脈の継承を訴え続ける一方で、現代俳句協会は都市生活者のリアルな生活感や前衛的な言語感覚を柔軟に取り入れ、俳句の地平を拡張しようと試みている。
両者のアプローチは対立するものではなく、むしろ伝統の幹を太くしながら新しい枝葉を茂らせるための両翼と言える。かつては存在しなかった冷房やペットボトルといった人工物が日常風景に定着し、猛暑のあり方そのものが変容した現在、歳時記は生き物のように呼吸を続けている。どの歳時記を手に取り、どの言葉に現代のリアリティを託すか。結社や流派の垣根を越え、詠み手一人ひとりの言語感覚が試されている。