主役を演じた菅田将暉が現場で見せた鬼気迫る佇まいは、撮影スタッフの間でも語り草になっている。地方都市の寂れた高架下、吹き付ける寒風のなかで行われたクランクアップ直前の夜間撮影。菅田は誰とも言葉を交わさず、ただ一点を見つめ、役柄が背負う絶望を呼吸するように溜め込んでいた。
「あの日の菅田さんは、演技をしているというより、そこに実在する壊れかけの人間そのものだった」。制作スタッフのひとりはそう振り返る。現場で配られた決定稿の台本には、いくつかの重要なシーンで台詞が一切書かれておらず、ただ「空白」のト書きだけが残されていたという。その余白をどう埋めるかは、俳優たちの剥き出しの感情に委ねられた。
共演陣との化学反応も尋常ではなかった。感情が限界まで高まったテイクでは、予定されていた立ち位置を大きく外れ、カメラマンが即興で手持ちカメラを構えて追いかける一幕もあった。予定調和を破壊するその生々しさこそが、本作を単なるフィクションから現実のドキュメントへと変貌させた決定打だったのだ。