運ばれてきた箱めしの蓋を開けると、艶やかに輝く穴子が姿を現します。ここで決して焦ってかき込んではいけません。玉ゐの箱めしには、ひつまぶしを凌駕する洗練された「4段階の美学」が存在します。
まずは第1段階、「そのままの味をストレートに味わう」。茶碗によそい、タレと穴子、ご飯の調和をダイレクトに噛み締めます。煮上げのシルキーな口どけ、焼き上げの心地よい焦げの風味を舌先で受け止めます。
第2段階は、「薬味の導入」です。卓上とお盆には、刻みネギ、本ワサビ、大葉、胡麻、そして乾燥柚子皮とおろし金が用意されています。ここで特筆すべきは柚子皮です。おろし金で微量の柚子をふりかけると、柑橘の鮮烈な香りが穴子のコクと合わさり、後味が劇的に爽やかへと昇華します。
第3段階は、「山椒によるアクセント」。上質な粉山椒をひと振りすることで、ピリリとした清涼感が全体の輪郭をキリッと引き締めます。
そして最終章の第4段階こそが、「特製出汁茶漬け」です。ご飯と穴子を3分の1程度残した状態で店員に声をかけると、熱々の出汁が急須で供されます。この出汁はただの昆布鰹出汁ではありません。穴子の骨を香ばしく焼き上げ、じっくりと旨味を抽出した特製スープです。残ったご飯と穴子の上に薬味をたっぷりのせ、熱い出汁を一気に注ぎ込むと、タレの甘辛さと穴子の脂が出汁に溶け出し、至高のアンサンブルを奏でます。サラサラと胃袋に収まる瞬間の多幸感は、並んだ労苦を一瞬で吹き飛ばしてくれます。