スーパーで販売されているペースト状のまぐろのたたきを手に取り、原材料表示を確認すると、魚肉の次に「植物油脂」や「ショートニング」「pH調整剤」「酸化防止剤(V.C)」といった記載が並んでいるケースが一般的です。水産加工メーカーへの取材や業界の製造工程データを紐解くと、これには明確な3つの技術的理由が存在します。
第1の理由は、「淡泊な赤身への脂質補完とテクスチャー(食感)の向上」です。市販のたたき加工品には、主にキハダマグロ、ビンチョウマグロ、メバチマグロなどの端材や赤身部位が使われます。これらの魚種はクロマグロ(本マグロ)のトロに比べて脂質が少なく、そのまま細かく刻むだけではボソボソとした食感になりがちです。ここに植物油脂(大豆油、菜種油、パーム油由来のショートニングなど)を数パーセントから十数パーセント練り込むことで、体温でとろけるような滑らかな口溶けと濃厚なコクを人工的に再現しています。
第2の理由は、「酸化による黒ずみ防止と冷凍耐性の強化」です。マグロの赤身に含まれるミオグロビンという色素タンパク質は、空気に触れると急速に酸化してメトミオグロビンへと変化し、くすんだ茶褐色に変色します。油脂で魚肉の粒子をコーティングすることで空気との接触を遮断し、鮮やかな色調を保持すると同時に、冷凍・解凍時の細胞破壊によるドリップ(旨味を含んだ水分)の流出を大幅に抑える効果を発揮します。
第3に、「栄養・カロリー面の大きな変化」は見逃せない事実です。純粋なマグロの赤身(キハダマグロ生)は100gあたり約106kcal、脂質は約0.4gと極めて高タンパク・低脂質な健康食材です。しかし、植物油やショートニングが添加された市販のたたき加工品の場合、100gあたりのカロリーは約160〜220kcal、脂質は10〜15g前後にまで跳ね上がります。ヘルシーさを期待して選ぶ際は、原材料表示で脂質の割合や添加物の有無を確認することが重要になります。