首のしこりにおいて、受診の緊急度を分ける最大の分水嶺は「痛みの有無」と「可動性(動くかどうか)」です。「痛いから危険、痛くないから安心」と思い込んでいる方が非常に多いのですが、臨床現場の現実は全く逆です。
まず「首のしこりを押すと痛い理由」の多くは、急性炎症による組織の内圧上昇です。代表的なものが頚部リンパ節炎です。風邪、扁桃炎、虫歯などの細菌やウイルスが首のリンパ節に侵入すると、免疫細胞が激しい防御反応を起こします。リンパ節が急速に腫れ上がり、外側の被膜が強く引っ張られることで、触れたり動かしたりした際に鋭い痛みが生じます。これらは炎症の沈静化に伴い数日から2週間程度で縮小していくのが通常です。
対照的に、最も警戒すべきなのが「痛くないのに消えないしこり」です。触っても痛みを感じず、硬い感触があり、数週間から数ヶ月かけて少しずつ大きくなる病変には、腫瘍性の疾患が隠れているリスクが高まります。
例えば、血液のがんである悪性リンパ腫の首のしこり初期症状は、典型的には「痛みのない、弾力性のあるゴムまりのような腫れ」として現れます。頸部リンパ節は悪性リンパ腫の初発部位として頻度が高く、全体の約7割近くを占めます。発熱や痛みを伴わないため見過ごされやすく、発見が遅れる主因となっています。
また、喉仏のすぐ下あたりが腫れている場合、甲状腺腫瘍の症状としこりが疑われます。甲状腺は唾を飲み込むと上下に動く特徴があり、良性の結節性甲状腺腫から、甲状腺乳頭がんなどに代表される悪性腫瘍まで多岐にわたります。こちらも初期には自覚症状がほとんどなく、健康診断や他疾患の画像検査で偶然発見されるケースが目立ちます。