センリツが現在のような特異な体躯へと変貌を遂げた元凶、それが作中屈指の不気味なオーパーツである「闇のソナタ」です。
作中の伝承によると、闇のソナタは「魔王が作曲した」と伝えられる呪われた楽曲であり、ピアノ、バイオリン、フルート、ハープという4つの楽器のために書かれた独奏曲で構成されています。これを人間が演奏したり聴いたりした場合、恐るべき災厄が肉体を襲うとされています。
音楽家としての探求心に燃えていた若き日のセンリツは、ある晩、酒の席で悪友が手に入れた「闇のソナタ(フルート独奏曲)」を耳にしてしまいます。その結果起きた事態は、まさに地獄絵図でした。
実際に曲を演奏した友人は全身が焼けただれ、肉体が異形へと崩壊して絶命。センリツ自身はわずか「第1楽章の1小節」を聴いただけでしたが、それだけでも右腕の筋肉や皮膚が著しく変形し、頭髪の脱落や前歯の突出、小柄な骨格への変容という不可逆的な呪いを受けました。友人の凄惨な死を目の当たりにし、自らも女としての身体を無残に奪われた喪失感は、想像を絶するトラウマとなったはずです。
しかし、この呪縛は彼女に絶望だけを与えたわけではありませんでした。過酷な肉体変容の代償として、センリツは「超人的な聴覚」と、音を通じて人の精神に直接干渉する稀有な念能力を開花させたのです。彼女の聴覚は、数百メートル先の足音を聞き分けるだけでなく、対象者の心音から「嘘」「動揺」「殺意」「疲労度」といった精神状態まで正確にスキャンできる次元に達しています。