多くの読者が大人になっても抱き続ける最大の疑問が、「あの白いうさぎの群れは何者だったのか」そして「なぜ、よもぎの葉一枚で助かることができたのか」という点です。作中の克明な描写を解剖していくと、ゾッとするような結末の真相が浮かび上がってきます。
結論から言えば、白いうさぎの正体は「吹雪(雪そのもの)の擬人化」であり、同時に人間をあちら側の世界へ連れ去ろうとする「異界からの使者・死のメタファー」です。作中でうさぎたちは少女に対して暴力を振るうわけではありません。むしろ楽しげに歌い、踊りながら少女の体力を奪い、感覚を麻痺させていきます。これは、遭難者が極度の低体温症に陥った際、寒さを感じなくなり心地よい眠気のなかで命を落としていく医学的プロセスと完全に重なり合います。
では、なぜ「よもぎの葉」が少女を救う鍵となったのでしょうか。民俗学的な見地において、よもぎは古来より強烈な「邪気払い」「魔除けの薬草」として用いられてきました。しかし文学的な文脈においてそれ以上に重要なのは、よもぎが「春の息吹」「大地の生命力」「母親やおばあさんが作ってくれた草餅の温もり」を体現している点です。
少女がよもぎを爪先で揉んだときに立ちのぼった特有の青々しい香りは、五感を通じて少女の魂に「生の現実」を呼び覚ましました。純白で無機質、音もなく命を奪い去る「冬・死の静寂」に対し、よもぎの放つ香気は泥臭く力強い「春・生の躍動」です。冷気の呪縛に囚われていた少女の精神は、春の匂いを吸い込むことで自我を取り戻し、結果として雪の精たちを消滅させ、生還を果たすことができたのです。