本作屈指の名シーンであり、映画全体の構造を決定づけているのが、指輪の光に導かれてハウルの少年時代を訪れたソフィーが発する叫びです。過去の空間が崩壊し、暗闇の泥濘へと吸い込まれそうになる刹那、ソフィーは叫びます。
「ハウル、カルシファー、私よ!ソフィーよ!待ってて、私きっと行くから!未来で待ってて!」
この呼びかけを聞いた少年ハウルは、胸の心臓を星の子に与えた直後の茫然自失の表情から、驚いたように目を見開き、頷くような仕草を見せます。ここに、ハウルの動く城における伏線回収の経緯のすべてが集約されていました。
物語の冒頭、兵隊に絡まれていたソフィーを助けたハウルが耳元で囁いた第一声は「探したよ」でした。初見の観客には単なるナンパの常套句、あるいはサリマンの追手を躱すための演技に見えたこの言葉。実のところハウルは、少年時代に光の中から現れた「未来のソフィー」の姿と名前を記憶し、何年もの歳月をかけて自分を救いに来てくれるはずの少女をずっと探し求めていたのです。時系列が円環状に閉じるこのタイムリープギミックによって、二人の出会いは偶然ではなく必然の約束へと昇華されました。