本書の白眉ともいえるのが、戦争指導者と国民世論の真相に切り込んだ分析だ。軍部や指導者層だけが好戦的だったのではなく、新聞などのマスメディアと国民世論が、政府の弱腰外交を激しく批判し、強硬論を後押ししていた現実が史料から明かされる。
日露戦争後の日比谷焼打事件に見られるように、国民は莫大な犠牲に見合う領土や賠償金を求め、政府が妥協的な外交を結ぼうとするたびに「軟弱外交」と糾弾した。政治家たちもまた、世論の反発やテロの恐怖から対外強硬策へと傾斜していった。「国民が騙されて戦争に引きずり込まれた」のではなく、「国民自らが熱狂し、選択肢を狭めていった」という事実は、現代の民主主義社会においても重い警鐘を鳴らしている。