今年の春に開催されたアリーナツアーは、日本のライブエンターテインメント史における明確な転換点となった。チケットは一般販売開始から数十秒で即完売。転売対策として導入された顔認証と分散型IDシステムを突破して会場に詰めかけた熱烈なファンたちが目撃したのは、物理的な肉体を持たないアーティストが創り出す、かつてない没入空間だった。
舞台演出を手掛けたクリエイティブディレクターは語る。「従来のバーチャルライブは、背景の大型LEDスクリーンに映し出された映像を眺める感覚に近かった。しかし今のシステムは違う。ライティングの反射、空気中のホコリの光り方、そして会場の歓声に応じたリアルタイムの視線移動まで、すべてがその場の環境とシームレスに同期している」。観客の視線を集めるのは技術の誇示ではない。そこに「誰かが立っている」という圧倒的な気配なのだ。