事件の前年である1998年9月、平良恵美子さんは自著『約束―わが娘・安室奈美恵へ』(扶桑社)を上梓しました。この本は単なるスターの母親による回顧録ではなく、どん底の貧困から娘を送り出し、国民的歌姫へと登り詰める過程を支えた母の偽らざる葛藤と愛の記録でした。
手記の中で恵美子さんは、沖縄アクターズスクールのマキノ正幸校長から「奈美恵さんは絶対に大成する」と特待生待遇を提示された際、月謝は免除されても毎日の交通費やレッスン着代が払えない現実に胸を痛めた過去を率直に告白しています。
「どんなに生活が苦しくても、子供が夢を見る翼だけは折ってはいけない」――手記の行間から滲み出るその覚悟に応えるように、奈美恵さんもまた弱音を吐くことなくレッスンに励み、母を楽にさせたい一心で東京へと旅立ちました。上京前夜、二人が交わした「絶対に途中で諦めず、自立した立派な大人になる」という固い約束は、その後の彼女の揺るぎないプロフェッショナリズムの原点となったのです。