劇中ではあえて説明過多を避け、映像の片隅に潜ませる手法が取られた裏設定。そのなかでも特に物語の陰影を深めているのが、「パズーの父親」と「海賊ドーラ」にまつわる真実です。
パズーの父・禄助が背負った汚名と悲劇
パズーがスラッグ渓谷の鉱山で見習い機械工として働きながら、自力で飛行機を組み立てている動機は、単なる大空への憧れではありません。探検家であった父(設定名:禄助)は、小型飛行艇で嵐の中に潜むラピュタの撮影に成功したものの、帰還後に学会や世間から「希代の詐欺師」「嘘つきの狂人」と激しいバッシングを浴びせられ、失意と貧困のなかでこの世を去りました。
パズーの行動原理の根底には、「父の汚名をすすぎ、父の見た景色が真実であったことを証明する」という痛切な雪辱の念が存在します。鉱山主の親方に頭を下げ、過酷な肉体労働に耐えていた少年の胸中には、家族の名誉を取り戻すための冷徹な覚悟が宿っていたのです。
空中海賊ドーラの若き日の肖像画が物語る血統
飛行戦艦タイガーモス号の船長室。荒くれ者の息子たちを率いる60歳の豪傑ドーラの私室の壁には、おさげ髪を結び、凛々しい表情を浮かべた若き美女の絵画がひっそりと飾られています。この肖像画の主こそ、若き日のドーラその人です。
宮崎駿監督は当時のインタビューや絵コンテの覚書において、「ドーラの若い頃はシータにそっくりだった。シータも50年経てばああなる」とユーモアを交えて明言しています。ドーラが物語中盤以降、シータに対して見せる並々ならぬ愛情と庇護欲は、単なる人質への打算ではなく、かつての自分自身の面影を見出し、その芯の強さに深く共鳴したからに他なりません。
飛行石の物理特性と「その後」の公式設定
ポムじいさんが「石が騒いでおる」と語った飛行石。公式設定によると、この石はラピュタの島を構成する特殊な鉱脈からのみ精製される「透光性結晶体」であり、地上で採掘された原石のままでは空気と触れることで急速に光と力を失います。王家の秘術と特定の器(ペンダント)によって封印されて初めて、重力を遮断する半永久的な浮揚特性を維持できるという綿密なSF設定が施されていました。
また、ラピュタ崩壊後のふたりの行方について、公式資料や小説版の記述を総合すると、パズーとシータはそのまま共同生活を送ったわけではありません。シータは生まれ故郷であるゴンドアへ戻り、パズーはスラッグ渓谷へ帰還して自作オーニソプターの完成を目指しました。互いに文通を交わしながらそれぞれの人生を歩み、自立した個人として再会を目指すという、極めて誠実で節度ある関係性が公式の後日談として成立しています。