里山に暮らす古老の間では、「竹に花が咲くと天変地異が起こる」「凶作の前触れである」といった不吉な言い伝えが今なお語り継がれています。この伝承の裏には、科学的に証明された驚くべき植物生理現象が存在します。
竹の花が咲くと枯れる真相は、竹が一生の最後に一度だけ花を咲かせて全エネルギーを種子作りに注ぎ込み、その後に個体群全体が寿命を迎える「一回結実性(モノカルピック)」の植物であることに起因します。開花周期は樹木の中でも群を抜いて長く、モウソウチクで約60年、マダケではなんと約120年に一度という超長期スパンで開花期が巡ってきます。稲穂に似た地味な黄緑色の花を一斉に咲かせた後、竹林全体が急速に茶色く変色し、広大な面積が一夜にして立ち枯れる光景は、人々に強い終末感を植え付けてきました。
なぜ広大な竹林が同時に枯死してしまうのか。その理由は、一見すると何千本もの竹が独立して生えているように見える竹林が、地下深くで「地下茎(根茎)」によって密接に繋がった単一のクローン個体だからです。どれほど広大な面積であっても、遺伝的には同じひとつの生命体であるため、体内時計のリセットとともに地下茎ネットワーク全体で一斉に開花プログラムが作動し、蓄えられた全炭水化物を消費して枯死に至ります。
歴史的に「不吉」とされたのは、竹が一斉に実を落とすことで野ネズミが爆発的に大繁殖し、周辺の農作物を食い荒らして飢饉を引き起こしたという生態学的連鎖が背景にありました。迷信の正体は、120年周期で発生する生態系の激震だったのです。