かつて若者たちの間で符牒(ふちょう)のように交わされていた「恋のABCの意味」は、男女交際における肉体関係の深化プロセスを、平易な3段階のアルファベットに分類したものです。
具体的には、「A」はキス(接吻)、「B」はペッティング(衣服の上または直接肌に触れる愛撫)、そして「C」はセックス(性交渉)を指します。直接口にするのが憚られた性のグラデーションを、無機質な英文字でぼかすことにより、友人同士の会話やメディア上で気軽に共有できる隠語として機能していました。
ここで多くの人が疑問を抱くのが、「恋のABCのDとは何を指すのか」という点です。元々の枠組みはAからCで完結していましたが、昭和40年代から50年代にかけての学校現場や若者カルチャーの中で、半ば冗談めかした警告やオチとして「D」以降が追加されていきました。語源として語られた代表例には以下のバリエーションが存在します。
もっとも流布した説は、出産を意味する「Delivery」や、予期せぬ妊娠・性感染症を警告する「Danger」です。Cの先にある現実的なリスクを戒めるニュアンスを含んでいました。また、関係の破綻を意味する「Dump(振る・捨てる)」や「Divorce(別れ)」、さらには結婚式を挙げ初夜を迎える「Day」など、語るコミュニティによって異なる解釈が付け足されていった歴史があります。つまり「D」は固定された統一見解ではなく、性の進展に伴う結果を語り合うための派生スラングだったのです。