音楽のジャンル横断が進む昨今、もっとも警戒すべきトラブルが「ポップス・ジャズ・DTMの現場」と「クラシック・吹奏楽の現場」が交差する瞬間に起こる音名クラッシュです。
英語圏のコード進行における「B」は、誰もが知る通り「シ(ドの半音下)」です。ところが、吹奏楽出身者が楽譜を見ずに口頭で「ここのベースライン、Bで伸ばしてください」と指示を出した場合、吹奏楽出身者は無意識に「シ♭」を弾き、ポピュラー畑のベーシストは疑いなく「シ♮」を鳴らします。結果として半音の強烈な不協和音が鳴り響き、現場が一瞬で凍りつく事態に発展します。
ネット上の音楽講座では「B♭のことをドイツ語でB(ベー)と呼ぶ」と解説されるケースが散見されますが、これは厳密には主客が逆です。ドイツ音名体系において、Bという文字自体が最初から「シ♭」を表す固有名称であり、そこに「フラットを付けた」わけではありません。この構造を理解していないと、ドイツ音名に無理やりフラットを重ねて「Bes(ベス=重変ロ、シのダブルフラット)」と混同する致命的な誤解を生むことになります。