動物病院の診察室で、14歳前後の猫の飼い主から最も多く寄せられる相談が「最近、一日中寝てばかりいる」「おもちゃに見向きもしなくなった」という声です。SNSや相談コミュニティを検証しても、「老齢だから寝る時間が増えるのは当たり前」と自分を納得させている飼い主が後を絶ちません。
しかし、臨床現場の獣医師が指摘する現実は異なります。猫が寝てばかりいる背景には、生理的な代謝低下だけでなく、「動くと関節が痛む」「貧血や脱水で身体がだるい」という病的なシグナルが隠されているケースが極めて多いのです。
海外の獣医学臨床研究報告によると、12歳以上のシニア猫の9割近くが「変形性関節症」を患っているとされています。猫は野生時代の防衛本能から、痛みを声に出して訴えることを徹底して隠します。その結果として現れるのが、以下の行動変化です。
- キャットタワーやお気に入りのソファへのジャンプを一瞬ためらう、あるいは登らなくなった
- 高いところから飛び降りた際、以前のような軽やかな着地ができず「ドスン」と鈍い音がする
- 歩くときの歩幅が狭くなり、背中をやや丸めてトボトボと歩く
- 自分で毛づくろい(グルーミング)をしなくなり、腰や背中にフケや毛玉が目立つようになった
これらはすべて、関節炎による痛みの兆候です。単に怠けて眠っているのではなく、「動くと痛いから横になっているしかない」状態に陥っている疑いがあります。さらに、脱水や腎機能の低下に伴う慢性的な倦怠感が重なると、遊ぶ気力そのものが奪われていきます。「寝てばかり」という日常の一コマは、加齢現象として片付けるのではなく、身体の不調を疑うべき重要な警告標識なのです。