かつて水泳界には「人類が到達できない壁」がいくつも存在していました。男子100m自由形の47秒の壁、男子200m個人メドレーにおけるマイケル・フェルプスの領域、そして女子種目で長年そびえ立っていた東欧勢の遺産です。しかし、近年の国際大会ではそれらの壁がことごとく粉砕されています。
記録ラッシュの背景にあるのは、単なる筋力強化ではありません。水中カメラとAIを用いた動作解析による「抵抗の極限削減」、そしてスタート台を蹴った直後から15mラインギリギリまで加速を維持するアンダーウォーター・ドルフィンキックの進化が決定打となっています。水面を泳ぐ時間よりも「水中でいかにロスなく推進力を生み出すか」というパラダイムシフトが、2020年代半ばの劇的なタイム短縮を支えているのです。