洋菓子売り場に並ぶ数ある焼き菓子の中で、治一郎が放つ存在感は群を抜いています。ブランドが掲げる「心で感じる美味しさ」という理念を具現化した代表作が、職人の手で丹念に焼き上げられるバウムクーヘンです。一般的なバウムクーヘンといえば、水分を奪われるようなパサつきを感じやすく、紅茶やコーヒーなどの飲み物が手放せないというイメージを抱かれがちでした。しかし、治一郎はその既成概念を根底から覆したことで知られています。
この驚異的な口どけを支えているのが、製菓業界でも極めて手間の掛かる「別立て法」の採用です。卵黄と卵白を別々に分け、卵白をきめ細やかなメレンゲ状に泡立ててから生地に合わせることで、まるで極上のスポンジケーキのような気泡構造を生み出します。さらに、一般的な商品よりも卵の比率を大幅に高めた贅沢な配合により、口に含んだ瞬間に広がる豊かなコクと黄金色の美しい断面を両立させました。
焼きの工程においても、熟練の職人がオーブンの前で生地の状態を秒単位で見極めながら、うすくレアな層をじっくりと約24層にもわたって重ねていきます。火を入れすぎれば水分が飛び、甘美な柔らかさが損なわれてしまうため、極限までしっとり感を残す絶妙な火加減のコントロールが不可欠です。これら高度なクラフトマンシップの集積こそが、フォークを沈めた瞬間に吸い付くような弾力を生み、世代を超えて選ばれ続ける最大の原動力となっています。