シリアス極まりない反戦・被爆文学である『はだしのゲン』が、なぜネット社会で一大ミームとなったのか。その契機は2000年代初頭の匿名掲示板文化にあります。
当時、電子掲示板群では感情を短文や画像で瞬時に返す「画像レス」の文化が急速に発展していました。その中で発掘されたのが、ゲンたちが白目を剥き、歯を食いしばって「ギギギ」と唸るコマでした。嫉妬、ゲームでの理不尽な敗北、日常生活で思い通りにいかないフラストレーションなど、言葉では説明しきれない苛立ちを相手に叩きつけるスタンプ代わりに、この極端な顔面描写がうってつけだったのです。
当時のネットユーザーの間では、「ギギギ…悔しいです」「あまりの理不尽にギギギが止まらない」といったテキストとともに画像が投下され、アスキーアート(AA)化されるなどして爆発的な広がりを見せました。昭和の少年漫画が持っていた「剥き出しの感情の熱量」が、感情を記号化して消費するゼロ年代以降のネット空間に奇妙な形でシンクロした結果といえます。