「毛を剃ると濃くなる」という噂の真相とは何でしょうか。結論から言えば、医学的には根拠が完全に否定された俗説(都市伝説)です。
皮膚科学の歴史を紐解くと、この疑問に対する科学的検証は100年以上前から行われてきました。代表的なものとして、1928年に人類学者ミルドレッド・トロッター(Mildred Trotter)博士が発表した臨床研究が挙げられます。被験者の片側の毛を定期的に剃り続け、剃らなかった側と毛の太さ・伸長速度・色素の濃さを比較測定した結果、両者の間に一切の有意差は認められませんでした。その後、1970年代に皮膚科専門医らが行った追試においても同様の結果が出ており、シェービングが毛包(毛を作る器官)の細胞分裂に影響を与えない事実が証明されています。
毛は皮膚の奥深くにある「毛母細胞」が分裂を繰り返すことで生成され、角化して体表へ押し出されたものです。カミソリの刃が接触するのは皮膚の表面からわずかに露出した角質層の領域だけであり、皮膚深部(皮下組織)に位置する毛根や毛乳頭に刺激が届くことは物理的にありません。刃物で表面を切断したからといって、毛を作る組織のDNA情報や毛の太さの設定が書き換わることは生物学的にあり得ないのです。