世界の金融市場で最も話題をさらったのが、米イーライリリーとデンマークのノボノルディスクによる時価総額の急拡大です。イーライリリーの時価総額は一時期9,000億ドルを突破し、ヘルスケア企業として前人未到の1兆ドルクラブ入り目前に迫りました。売上高ランキングでは5位〜7位前後に位置する企業が、売上高トップのJ&Jを時価総額で2倍以上突き放すという、歴史的な「ねじれ現象」が生じています。
この大躍進の原動力となったのが、GLP-1受容体作動薬と呼ばれる糖尿病・肥満症治療薬です。ノボノルディスクの「オゼンピック」「ウゴービ」(一般名:セマグルチド)、そしてイーライリリーの「マンジャロ」「ゼップバウンド」(一般名:チルゼパチド)は、体重の15%〜20%以上を減少させるという臨床データを叩き出し、世界的な社会現象を巻き起こしました。
米大手投資銀行のアナリストが指摘するように、肥満症薬市場は2030年までに年間1,000億ドル(約15兆円)規模へ達すると予測されています。肥満は心血管疾患や睡眠時無呼吸症候群、慢性腎臓病など多岐にわたる合併症のリスク要因であるため、各国保険当局の適用拡大が進むにつれて、市場規模はさらに膨れ上がる構造です。投資家たちは、従来の「特定の難病患者に対する高額医薬品」ではなく、「世界数十億人の生活習慣病患者に向けた定期消費型のメガヒット薬」としての爆発的なキャッシュ創出力に熱狂しています。
イーライリリーがノボノルディスクを時価総額で上回った決定的な要因は、後発でありながら「GLP-1」と「GIP」のデュアル受容体作動薬としてより高い減量効果を示した点に加え、アルツハイマー病治療薬「ケサンラ」(ドナネマブ)などの大型新薬パイプラインを複数併せ持っている点にあります。単一領域への依存を回避しつつ、次の10年を牽引するドライバーを揃えていることが、市場からのプレミアム評価につながっています。