在日韓国人が直面してきた生活課題の中で、最も象徴的な事象が「通称名(通名)」の使用と「帰化手続き」をめぐる葛藤です。
通称名(通名)の背景と現在の法的運用
通称名とは、戸籍上の本名とは別に日本社会で日常的に使用する日本風の氏名です。その源流には、戦前の皇民化政策下で導入された「創氏改名」の影響や、戦後の就職・結婚・賃貸契約等における根深い差別を回避するための自衛策がありました。多くの当事者が長年、学校や職場で日本名を使用して生活してきた歴史があります。
かつては行政窓口での通名登録が比較的緩やかに行われていた時期もありましたが、2012年の制度改正以降、実体法上の厳格化が進みました。現在は「勤務先での給与受給実績」「不動産契約の実績」「公共料金の領収書」など、社会生活上長期間使用している客観的証拠資料を提出しなければ登録が認められない仕組みとなっています。
関西地方に暮らす在日3世の会社員(30代男性)は、以前のドキュメンタリー取材において胸中を次のように明かしています。
「子どもの頃は本名を明かすのが怖くて通名だけで生きていました。しかし就職活動の際、人事担当者から国籍について率直に尋ねられたことをきっかけに、自分の中で『隠して生きることへの違和感』が強くなりました。現在は職場で本名を名乗っていますが、世代が下がるほど、通名を使うか本名を使うかは政治的意味合いではなく、単なる個人の選択や生活の利便性の問題として捉えられています」
日本国籍取得(帰化)の現状と審査のハードル
法務省の発表資料によると、毎年約6,000人から8,000人規模の在日韓国・朝鮮人が日本国籍の取得を申請し、許可されています。日本生まれの特別永住者の場合、一般の外国人に比べて居住要件などが緩和される「簡易帰化」の規定が適用されるものの、その手続きは決して簡単なものではありません。
- 膨大な戸籍資料の収集:韓国本国の家族関係登録簿(除籍謄本など)の取り寄せと日本語翻訳の添付
- 生計要件・納税状況の徹底審査:直近数年間の納税証明、年金加入記録、預金残高や世帯収入の調査
- 素行要件:交通違反歴の有無や刑事罰の有無に関する厳正なバックグラウンドチェック
申請から許可が下りるまでには1年前後の期間を要し、申請書類は数百ページに及ぶことも珍しくありません。それでも帰化を選ぶ人が後を絶たない背景には、住宅ローンの審査や海外渡航時の手続きの円滑化、そして「将来生まれてくる子どもに国籍による手続き上の煩雑さを背負わせたくない」という現実的な配慮があります。