ネット上で頻繁に議論される「母乳で育った子は風邪をひかない」「母乳育児 IQ 頭がいい 噂」の真偽について、近年の大規模コホート研究は冷静な結論を下しています。結論から言えば、母乳成分に含まれる分泌型IgA(sIgA)やオリゴ糖(HMO)による乳幼児期の急性感染症リスク低下は確かな事実ですが、生涯にわたる無病息災や知能指数の飛躍的な向上を保証するものではありません。
小児科医の見解や疫学データによると、母乳栄養児は人工栄養児と比較して、生後数カ月間における急性中耳炎の発症率が約50%低下し、重症下痢症などの胃腸炎リスクも約64%減少することが確認されています。これは母乳が赤ちゃんの未熟な腸粘膜をコーティングし、病原体の侵入を物理的・生化学的に防ぐためです。しかし、この受動免疫の効果は離乳食が進み、自らの免疫システムが立ち上がる生後半年から1年頃にかけて徐々に薄れていきます。「保育園に入園した途端に何度も熱を出した」という声が母乳育ち・ミルク育ちを問わず等しく聞かれるのは、この生理的メカニズムによるものです。
また、知能指数(IQ)に関する議論では、過去に「母乳群の方が学力テストで高得点だった」とする報告がセンセーショナルに報じられました。しかし、近年の兄弟姉妹間比較(同じ母親から生まれ、一方は母乳、他方はミルクで育ったケースを追跡する調査手法)では、授乳形態によるIQの有意な差は消失または極めて僅差にとどまることが証明されています。母乳育児を長期間完遂できた家庭の多くが、母親の教育水準の高さ、世帯収入のゆとり、家庭内での豊富な知育刺激といった環境要因に恵まれていたことが、子どもの認知発達に直接寄与していたという「交絡因子の罠」が浮き彫りになっています。