西新宿の雑居ビル9階。エレベーターを降りた瞬間、乾燥させたハーブと芳醇なスパイスの香気が鼻腔をくすぐる。バーテンダー・鹿山博康氏が率いる「Bar BenFiddich」の空間は、さながら現代の錬金術工房だ。世界中から巡礼者が絶えないこの店は、液体と植物の境界線を溶かし去るような革命を起こし続けている。
鹿山氏の真骨頂は、埼玉・ときがわ町の自社農園で自ら土を耕し、収穫したボタニカルをその場でクラフトする「ファーム・トゥ・グラス」の思想にある。すり鉢で挽かれる薬草、蒸留器から滴るアブサンの雫。既成概念を覆すカクテルの数々は、単なる飲み物を超えて大自然のテロワールを舌先で体験する旅そのものだ。
古典の技法を踏襲しながらも、前衛的な発想で素材を再構築するミクソロジーの世界。その最前線がここ新宿に根を張っている事実は、日本の酒文化が到達した新たな地平を示している。