黒板五郎という不世出の主人公を演じきった田中邦衛の存在なしに、このドラマの成功はあり得なかった。丸太小屋を建て、風力発電に挑み、ときに世間の不条理に打ちのめされながらも泥にまみれて笑う五郎。田中の独特な語り口と、哀愁とユーモアが同居する唯一無二の佇まいは、理想の父親像という言葉では到底括りきれない強烈なリアリティを放っていた。
2021年の旅立ちに際しては、日本中が深い喪失感に包まれた。しかし、彼がスクリーンとブラウン管に刻みつけた魂は、決して消え去ることはない。田中邦衛の演技は、技術を超えた「人間の生き様そのもの」を提示していたからだ。
さらに、地頭の草太を演じた時任三郎、雪子叔母さんを演じた竹下景子、そして五郎の親友として物語に深みを与えた地井武男や大滝秀治など、名優たちが織りなしたアンサンブルの密度は圧倒的だった。すでに世を去った名優たちも少なくないが、彼らがフィルムに遺した熱量は、今なお観る者の胸を激しく揺さぶり続けている。