ファンや専門家の間で絶え間なく議論される「歴代最強の山の神は誰か」という問い。近年の詳細なバイオメカニクス解析と気象・コース傾斜データの統合により、それぞれの走行特性が鮮明になってきた。絶対的なインパクトとタイムの上がり幅において、多くの識者が柏原竜二の全盛期を筆頭に挙げる。彼の登坂スピードは平地換算で1000mを2分50秒前後で刻む計算となり、勾配7パーセントを超える心臓破りの坂でも推進力が衰えなかった。
しかし、神野大地の驚異的な体脂肪率と足首の柔軟性が生む登坂効率もまた、データ上屈指の数値を弾き出している。神野は坂道での着地衝撃を最小限に抑え、エネルギーロスを極限まで削ぎ落とする走法を確立していた。一方、今井正人は強烈な向かい風や路面凍結といった極限状態においてもブレない体幹の強さを誇り、メンタル面の頑強さでは群を抜く。
秘蔵のエピソードも残されている。柏原はレース直前、極度のプレッシャーから控室で誰とも口をきかず、ヘッドホンで大音量の音楽を聞きながら集中力を極限まで研ぎ澄ましていた。神野は過酷な減量と股関節の可動域訓練をミリ単位で管理し、直前の試走で「いける」と確信した瞬間、チームの作戦ノートに自ら「区間新」と書き記していたという。激闘の舞台裏には、データだけでは測れない狂気にも似た執念が存在していた。