ネット上の雑学クイズやSNSのまとめ投稿で、定期的にバズを生み出すのが「プーさんの苗字はサンダース」という言説です。アニメや絵本を注意深く観察している人ほど、プーさんの家の玄関の上に掲げられた「MR. SANDERZ(サンダース氏)」という金文字の看板を記憶しており、「本人が誇らしげに掲げているのだから苗字に違いない」と思い込んでしまう構造がここにあります。
しかし、原作者A・A・ミルンが1926年に発表した原作童話『Winnie-the-Pooh』の第1章には、この看板について明確かつユーモラスな説明が記されています。
原典の記述によれば、プーさんは「サンダースという名前の下で(under the name of Sanders)」暮らしていました。英語圏の慣用句として「〜という名前を名乗って(偽名を使って)」という意味にも取れる表現ですが、ミルンはすかさずこう補足しています。「それは、ドアの上にその名前が金文字で書かれていて、その真下で暮らしていたという意味である」。
つまり、プーさんは以前住んでいたサンダースという人物の表札を外さず、そのまま居抜きで暮らしているだけなのです。さらに表札のスペルが「SANDERS」ではなく「SANDERZ」と綴りを間違えている点も、森の仲間たちの幼さや無頓着さを象徴するイギリス伝統のナンセンス・ユーモアの一環であり、苗字を名乗っているわけではありません。