役目を失った奇妙な階段を語る上で欠かせないのが、1980年代に美術家の赤瀬川原平氏、作家の南伸坊氏らが立ち上げた「路上観察学会」と、彼らが提唱した「超芸術トマソン」という概念です。
トマソンとは、「不動産に付着していて美しく保存されているが、実用性が完全に失われた無用の長物」を指す造語。プロ野球・読売ジャイアンツに高年俸で加入しながら三振の山を築いた助っ人外国人選手、ゲーリー・トマソン氏に由来しています。
そのトマソンの記念すべき第1号として発見された物件こそが、東京都新宿区四谷に実在した「上って下りるだけの階段」でした。途中に扉も通路もなく、ただ登って降りる機能しか持たないこの構造物は、学会によって「純粋階段」と名付けられました。
「役に立たないからこそ、純粋な彫刻作品(=超芸術)として鑑賞できる」という逆転の発想は、サブカルチャーの枠を超えて現代アートの世界でも高く評価され、今なお多くの愛好家を惹きつけています。