ミラノ現地に現存する『最後の晩餐』は、縦4.6メートル、横8.8メートルの巨大な壁画です。ダ・ヴィンチは通常のフレスコ画法(漆喰が乾く前に描く技法)を選ばず、試行錯誤が可能な独自のテンペラ油彩混合技法を採用しました。その結果、完成からわずか数十年で絵の具の剥離が始まり、数世紀にわたる修復の歴史をたどることになります。
現地を訪れると、食堂の実際の窓から入る自然光の角度と、絵画内の左側から差し込む光の陰影処理が完全に一致するように計算されていることが分かります。画面全体の透視図法(遠近法)の消失点は、「イエスの右こめかみ」に正確に設定されています。
当時の修道僧たちは、毎日この食堂で沈黙のうちに食事をとりながら、自分たちの食卓の延長線上に現れる「イエスの宣告」と「暗がりで身をすくめるユダ」を仰ぎ見ていました。鑑賞者を空間全体に巻き込むこの没入型プロデュースこそが、ダ・ヴィンチの真骨頂でした。