家永カノという存在を語る上で、決して切り離せないのが「不敗の牛山」こと牛山辰馬との関係です。ネット上でもゴールデンカムイ 家永 牛山という組み合わせは、作中屈指の尊い絆として語り継がれています。
札幌世界ホテルの崩壊時、爆炎と崩落の中から家永を抱きかかえて救い出したのが牛山でした。牛山は家永の正体が老齢の刺青囚人であり、戸籍上は男であるという事実を最初から意に介していませんでした。彼にとって家永は、出会った瞬間から一貫して「守るべき魅力的な一人の女」だったのです。
「女子供に手を出す男は許さねえ」という確固たる美学を持つ牛山は、周囲が家永の正体に眉をひそめようとも、常に彼女を淑女としてエスコートし続けました。自分自身の外見に絶望し、他者を喰らうことでしか「女」としての自己を保てなかった家永にとって、己の素性をすべて知った上でなお、欺瞞なく「美しい女」として扱ってくれる牛山の存在は、生涯で初めて触れた無償の愛に他なりませんでした。
家永は牛山を親愛を込めて「チンポ先生」と呼び、ときに毒づきながらも、彼の前でだけは脆く儚い本来の心を覗かせます。二人の間に肉体関係を超えた奇妙で高潔な情愛が芽生えていく過程は、バイオレンスが加速する物語中盤における至高の清涼剤となっていました。