これまで家族の機微を繊細に掬い取ってきた是枝裕和監督が、本作では鋭利な牙を剥く。濃密なヒューマンドラマの骨格に、心拍数を跳ね上げるサスペンス映画のダイナミズムを融合させたのだ。この化学反応の中心に座るのが、役所広司という圧倒的な存在である。
役所が演じるのは、東西の利権争いの狭間で孤立する元刑事。彼の疲弊した背中、迷いを宿した眼差し一つで、スクリーン全体の温度が数度下がる。台詞の少なさを補って余りある身体表現の凄み。現場スタッフが思わず息を止めた瞬間が何度もあったという。
「人間の善悪は、地理的な境界や生まれた環境で簡単に裏返る」。是枝監督が長年温めてきたこのテーマは、役所の圧倒的な説得力によって、鋭利な社会批判へと昇華されている。