てんとう虫コミックスの表紙デザインには、一見するとシンプルな児童向け漫画とは思えないほどの、計算し尽くされた仕掛けが張り巡らされています。その代表例が、カバー上部に配置された「タイトルロゴ」と中央の「メインイラスト」、そして背景色のカラーリング戦略です。
最大の視覚的特徴は、本棚に収まった際にも一瞬でタイトルを判別できる「鮮やかな黄色の背表紙」と、おなじみの赤い「てんとう虫マーク」です。昭和40年代後半から50年代にかけての書店環境において、子どもたちの目線の高さ(床上80cm〜120cm)に並んだ際、黄色と赤の補色関係は圧倒的な誘目性を発揮しました。さらに表紙中央のイラストでは、ドラえもんが正面を向いて読者と視線を交わす「アイキャッチ構造」が意識的に採用されています。人は他者と目が合うと無意識に足を止めるという心理学的アプローチを、藤子氏は直感的にカバー構成へと落とし込んでいたのです。
また、通常版コミックスと映画連動企画である大長編ドラえもん表紙イラストとの決定的な差別化も見逃せません。通常版のてんコミが「日常の延長線上にあるユーモアとドタバタ」を白地や明るい背景色で表現していたのに対し、大長編シリーズ(1980年の『のび太の恐竜』からスタート)の表紙は、まるで劇場用ポスターや名作冒険小説のような重厚な世界観を湛えています。恐竜が咆哮するジュラ紀の大自然、深海の底に沈む古代遺跡、あるいは宇宙空間の漆黒など、藤子氏がドクターマーチンのカラーインクや水彩絵の具を駆使して塗り重ねた背景画は、児童漫画の枠組みを遥かに超越した芸術性を誇ります。
さらに、未収録作を中心に2005年から刊行が開始されたドラえもんプラス表紙一覧(2023年刊行の第7巻まで)では、伝統的なてんとう虫コミックスの基本レイアウトを踏襲しながらも、より現代的な淡いパステルトーンの背景色が採用されました。従来のファンに対するノスタルジーを損なうことなく、21世紀の新規読者にも清潔感と親しみやすさを与える見事なデザインの継承が行われています。