本作のリアリティと叙情性を決定づけたのが、原作・阿久悠の故郷である兵庫県淡路島での徹底した長期ロケーションでした。
篠田正浩監督は、昭和20年代の空気感を再現するため、淡路島内の木造校舎(旧五色町立鮎原小学校など)や美しい海岸線をフルに活用しました。当時の現場スタッフの証言によると、夏目雅子は撮影の合間も子役たちと輪になって砂浜で会話し、まるで本当の担任教師のように子どもたちの緊張をほぐしていたといいます。劇中で見せる子どもたちの自然で屈託のない笑顔は、彼女が現場で築き上げた信頼関係の賜物でした。
また、本作を語る上で欠かせないのが「音楽の力」です。劇中では池辺晋一郎によるノスタルジックな劇伴に加え、進駐軍の到来を象徴するグレン・ミラーの「イン・ザ・ムード」などのジャズナンバーが効果的に挿入されます。さらに、関連ソング・イメージソングとして当時話題を呼んだ原由子の「恋は、ご多忙申し上げます」やクリスタルキングの楽曲など、戦後の混乱から急速に新しい大衆文化へと舵を切っていく日本の空気感を、耳からも鮮烈に想起させる構成となっています。