細谷佳正のキャリアを語る上で避けて通れないのが、2017年4月の突然の活動休止発表です。当時、数多くの主演・メインキャストを抱え、声優業界の第一線を疾走していた彼を襲ったのは、声帯結節およびポリープの悪化でした。
公式発表資料によると、医師から「このまま発声を続ければ、二度と声が出なくなる可能性がある」という最終宣告を受け、即座に喉の手術を受ける決断を下しました。自著や復帰後のインタビューにおいて、当時の心境を「表現者としての死を宣告されたような絶望だった」と述懐しています。声が商売道具である声優にとって、喉にメスを入れることは声質が変わってしまうリスクを常に孕んでいるためです。
しかし、この約4ヶ月間の療養期間は、彼にとって単なる静養ではなく「発声と表現の構造改革」の時間となりました。喉だけに負担をかける従来の力任せな発声法を徹底的に解体し、身体全体を使って共鳴させる古武術的な身体感覚や、心理的な緊張を解くメソッドを一から構築し直したのです。同年8月、自身の誕生日イベントにて見事に早期現場復帰を果たした際、ファンからは安堵の涙とともに「以前よりも声に奥行きが増し、言葉が真っ直ぐ届くようになった」と驚きの声が上がりました。