Q1:お嬢さんはKの好意に気づいていたのですか?
A1:作中では明確に描かれていませんが、Kがお嬢さんに対して特別な態度をとっていたこと、そして母(奥さん)を通じて下宿内の空気を敏感に察知していた可能性は極めて高いと考えられます。ただし、Kが自死するほどの葛藤を抱えていたことまでは認識していなかったと読むのが自然です。
Q2:なぜ先生はお嬢さん(妻)に遺書を遺さず、「私」だけに真相を打ち明けたのですか?
A2:先生自身が遺書の中で「妻には私の過去を純白なものとして記憶させておきたい」と語っています。妻の記憶を汚したくないという愛情表現であると同時に、自分が裏切り者であることを最愛の人に知られる恐怖に耐えられなかったという、先生の保身とエゴの表れでもあります。
Q3:先生が命を絶った「明治の精神に殉死する」とはどういう意味ですか?
A3:明治天皇の崩御と乃木希典将軍の殉死は、当時の知識人に巨大な歴史的断絶を感じさせました。明治の近代化とともに生まれ、自意識の地獄に苦しんだ先生にとって、明治の終わりは自らの人生の役割の終わりを意味し、長年先延ばしにしてきた「Kへの追腹(おいばら)」を実行する最後の契機となったと解釈されます。
Q4:教科書と単行本の文庫版では何が違いますか?
A4:教科書には物語のクライマックスである「Kの告白から自死まで」を中心としたごく一部(全体の1割程度)しか掲載されていません。「上」における先生と私の奇妙な友情や、「中」における私の実家の重苦しい人間模様を読まなければ、先生がなぜあれほどまでに人間を疑い、孤独を抱えていたのかという根本的な動機を理解することはできません。