情報空間に溢れる言説の中には、獣医学の現場感覚から著しく乖離した誤解が数多く定着しています。後悔を防ぐためには、これらの言説を客観的にフィルタリングしなければなりません。
最も典型的な誤解は「去勢すれば寿命が絶対に延びる」という極論です。確かに精巣腫瘍や前立腺疾患による死亡リスクは排除されますが、去勢犬は肥満に起因する心疾患・呼吸器疾患、特定のリンパ腫や肥満細胞腫などの発症率がわずかに上昇するという統計も存在します。結果として「平均寿命に劇的な大差は生じない」というのが近年のグローバルな疫学研究の趨勢です。どちらの病気リスクをより重視して予防するかという「リスクの選択」に過ぎません。
また、「去勢した犬はドッグカフェやドッグランで絶対にマウントをしなくなる」というのも誤りです。興奮や優位性の主張、単なる遊びの延長として行われるマウンティングは去勢後も残ることが多く、しつけの代替手段として手術を利用しようとした飼い主は確実に失望することになります。