どれほど入手困難な名作であっても、PlayStation Storeの「ゲームアーカイブス」や現行ハードへのHDリマスター移植が行われれば、中古市場の相場は自然と沈静化するのが通例です。しかし、PS版『lain』に関しては発売から25年以上が経過した現在も、公式によるデジタル配信やリメイクが一度たりとも実現していません。この「移植の絶望的な難しさ」こそが、中古価格を高止まりさせている最大の障壁です。
関係筋への取材およびゲーム業界の権利構造から浮かび上がる真相には、大きく分けて2つの分厚い壁が存在します。
1. 開発・発売元の変遷による権利関係の散逸
販売元であった「パイオニアLDC」は、その後電通への売却(ジェネオン・エンタテインメント)、ユニバーサル・ピクチャーズ傘下との合併(ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントジャパン)、そして現在の「NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン」へと激しく社名と資本構造を変遷させてきました。その過程でアニメ版の権利は明確に保全・展開(Blu-ray BOX化等)されたものの、ゲーム版の実制作を担った外部制作会社や個々の権利帰属、開発当時のマスターデータやソースコードの所在が曖昧になってしまった経緯が指摘されています。
2. 現代の倫理基準(CERO規定)に抵触するゲーム内容
さらに決定的なのが、作中で描かれる精神医療、自傷行為、児童の自殺描写という表現上の制約です。ゲーム版『lain』のシナリオは、12歳の少女・岩倉玲音がカウンセラーの米良柊子との対話を通じて徐々に自我を解体され、最終的に極めて衝撃的な結末を迎える過程を生々しい音声データで記録しています。1998年当時は自主規制機関である「CERO」設立前だったため販売可能でしたが、現行ハードで再リリースする場合、CEROの厳格な審査を受ける必要があります。
特に「未成年者の自殺の直接的表現」は、CERO倫理規定において最も厳しい区分(場合によっては「審査拒絶」で発売不可)に該当する可能性が極めて高いと業界内では分析されています。仮に審査を通すために該当シーンをカット・修正すれば、作品の根底にあるテーマ性が完全に損なわれてしまうため、原作者や権利元としても安易な妥協によるリメイクに踏み切れないというジレンマを抱えているのです。